テレビ疾風怒濤
書 題:テレビ疾風怒濤
副 題:
著 者:辻 真先
出版社:徳間書店
発行年:1995/11/30
辻真先という人を知るためには、絶対に外せない本である。
テレビアニメの嚆矢とされる鉄腕アトムを始め、
特に初期のアニメで関わっていない作品の方が少ないくらいの人というのは、
少しアニメの歴史を囓った人なら、今では多くの人が知るところだろう。
 しかし、彼のテレビ活動の原点は、なんとNHK社員として始まっていた。
それも、テレビ放送開始期というから、生きるテレビ史と言って良い。

この本は、そんな彼の記憶語りに属する類の本である。
なにしろ執筆当時ですら、テレビ放送開始当時の裏方事情を、
生の記憶として語れる人材は、もうほとんど鬼籍に入っていた。
そんな状況に危機感を持って執筆された本作は、
だから主に、テレビの黎明期の話となっている。
アニメマニアが量産されだして以降に関しては、別に著作がある。
ここではやはり、NHK時代の話と、彼の幼少期の話が面白い。

なにしろ当初のテレビは、全ての放送が生だから、
今日的な失敗談が本当に枚挙に暇無い。
それを辻が、その作家性で非常に面白く描写しているので、
テレビ史に興味ある人なら、まったく飽きる間も無く一冊読み切ってしまうだろう。
それら逸話も、半端でない数が紹介されている。
その記憶力にも驚くが、あれだけ忙しかった時代の事を、
それだけ覚えているというのは、やはり、その作家性に拠るのであろう。

当初は駆け出し職員として、本当に何でも屋の裏方として、
読んでいるだけでそら恐ろしくなる繁忙の毎日が綴られる。
けれども、この時代のこうした人たちの話を聞くにいつも思うが、
なんと幸福な人たちであったろう。
時代と、立場と、様々な環境に恵まれた人たちの話は、
読んでいて非常に面白く、また、無性に羨ましくなる。
ただ、辻の超人ぶりは頭抜けていたのではないだろうか。
とにかくワタクシなら、比喩でなく目を回していたに違いない。

何でも屋から演出・脚本まで手掛けるようになり、
やがてホンの方が文字通り本職となっていき、
ついにはNHKを退職して脚本家となる。
崇拝していた手塚治虫との繋がりも弥増してゆくが、
その先駆けとなったのは、NHK時代に自ら企画した
「ふしぎな少年」であり、 その辺の話も、
今日では一切資料が残っていないだけに、非常に貴重である。
ドラマでは、「バス通り裏」が彼の関わった代表的な作品となろうか。
 
当時の様々なタレント、番組、制作者に関する、それぞれの逸話が非常に楽しい、
昭和のテレビが好きだった人なら、読んで損は無い一冊である。


★★★★★ 独自採点 ★★★★★


資料性:6
  記憶語りが中心だが、制作に直接関わった人物の証言でもある。

面白さ:9
  次から次へと繰り出される黎明期の失敗談。今となっては笑い話。

必携度:5
  資料性は弱いが、これだけのテレビ黎明期体験談は多くない。

入手難度:3
  探せば容易に入手可能。