テレビCMの青春時代書 題:テレビCMの青春時代
副 題:ふたりの名演出家の短すぎた生涯
著 者:今井和也
出版社:中央公論社
発行年:1995/1/25
資生堂CMの杉山登志とレナウンCMの松尾真吾。
一言で書けば、この本の内容はこの二人の生涯である。
しかし、日本のCMが自己主張を始めたのは、
正しくこの二人の作品によってと著者は言いたいのであろう。
共に悲劇的な終焉を迎える杉山と松尾の活動を検証する事とは、
日本のテレビCMが「作品」として自我を持って行く過程の検証なのだと。

勿論二人とも、資生堂やレナウン以外のCMも多数手掛けているわけだが、
やはりそれぞれ特に代表されるものがそうなるわけだ。
とりわけ杉山登志の軌跡を辿る事は、同時に、
電通寡占前のテレビCMを振り返る事にもなる。
伊庭長之助が興した日天こと日本天然色映画で活躍した杉山の稿では、
その社長である伊庭の成り立ちから詳細に語られる。
即ち、日本の映像広告黎明期を語る事でもある。

そのような丁寧な記述で、杉山と松尾の生涯が振り返られていくわけだが、
著者はレナウンの広告担当であったから、分けても松尾の稿は、
担当者による生の証言でもある。
まだ駆け出しだった小林亜星が、一人で全ての楽器を駆使して著者に、
後年有名になるあのレナウンの歌を披露した話など、秘話が満載である。
勿論、杉山の稿も、丹念に取材・研究が為されているし、
現場は違うとは言え同じ業界であったから、非常に詳しく記述されている。

それにしても、読了後というか、読んでいる途中から感じる、
このやるせなさは如何ともしがたい。
もう少し、なんとか出来なかったのかと、
当時のオエライさん方に詰め寄りたくなる。 
有り体に言えば、凡人の数倍の速度と密度で人生を過ごしたとなるのだろうが、
そんな着飾った言葉で誤魔化すだけで良いのだろうかと疑問も感じる。
企業戦士という言葉も死語といった感の有る昨今だが、
この両者にとっては、比喩で無く現場は戦場だったのかもしれない。
同時に、憩いの場でもあったのであろうけれども。 


★★★★★ 独自採点 ★★★★★


資料性:7
 かなり丹念に調査をしたとみえて、子細な描写に圧倒される。

面白さ:7
 杉山の稿で触れられる、彼が活躍した日天という会社も昭和テレビ史に外せない。

必携度:4
 大きくは二人に関する伝記なので。

入手難度:3
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