元祖テレビ屋大奮戦!書 題:元祖テレビ屋大奮戦!
副 題:
著 者:井原高忠
出版社:文藝春秋
発行年:1983/10/20
テレビ番組制作界に於いて、天皇とまで称された人物である。
その出自は、三井家次男を父とするサラブレッドではあるものの、
GHQによる一時の財閥解体政策も有って、
金は売れっ子出演者よりも持っていなかったようだ(笑)。

青春時代はわりと軟派に過ごしたようで、バンド活動に没頭。
往時のバンドマンには後の芸能界を築き上げる人材が跋扈していて、
渡辺プロを興す渡辺晋・渡辺(曲直瀬)美佐、
ホリプロを興す堀威夫、サンミュージックを興す相澤秀禎、
田辺エージェンシーを興す田邊昭知らとは、
その当時からの顔見知りであるわけだ。

そしてそのバンド活動で、開局前の試験放送にも出演したというから、
ほとんどシーラカンス級のテレビ人間である。
それから三井のコネで開局を控える日テレに入社し、
開局と同時に番組制作で奔走を始める。
ニッケ・ジャズ・パレードでは、ヘレン・ヒギンスに網タイツをはかせ、
刺激が少ない時代の殿方の目の保養として人気を呼んだ。

バラエティー番組の始祖としてテレビ史に残る『光子の窓』、
そしてテレビバラエティーの一つの頂点となった『ゲバゲバ90分』等、
有名無名併せて、携わった番組の数々が、
非常に詳細な記憶と共に語られていく。
のべ三十時間の語りを文字にしたものだというが、
よくもまあこれだけ詳細に語れたものだと思う。
帯に「テレビの事は語り尽くしてしまった」と有るだけはある。

毀誉褒貶ある人物そのままを出すための語りであろうが、
そんなわけだから、いかにもの井原節が炸裂しまくりである。
後世に残す本という事で、かなり抑えているのも解るのだけれども、
それですらこれか!という感じだ。
そりゃ、嫌われる人には嫌われるだろう。
そんなこんなで渡辺プロと戦争状態になったのは、
テレビ界ではわりと有名な話だが、勿論、その話も語っている。

語っていない事も勿論多いのだろうけれど、語っている事で言えば、
本当にあけすけにかなりの事まで喋っている本で、
ナベプロとの戦争とも深く関わる『スター誕生!』の話では、
日本テレビ出版が潤ったという事にもきちんと触れている。
既にこの当時に、直の関係者がこの点を書いているとは驚いた。
日ナベ戦争には実利的な理由も有って、渡辺プロが手にしていた
出版権という果実を、テレビ局が強奪に掛かったという話でもある。
まあ、さすがにここまで細かく語ってはいないのだが。

ただ基本的には、井原という人物にとって、
権勢凄まじい頃の渡辺晋という人物は、好ましからざる人間だったのだろう。
藤木孝がナベプロから干された際、救いの手を差し伸べたのが井原で、
おそらくこれが、盧溝橋事件に値するような発火点だったと思われる。
従って、少なくともその時点で既に、井原は渡辺晋が嫌いだったのだろう。
それが、「(うちの歌手を出したいなら)紅白歌のベストテンの
放送時間を変えればいいだろう」という渡辺晋の言葉で爆発するのだ。

とまあかように、貴重で正直な忌憚ない話がたっぷり一冊詰まっており、
この本でしか判らないような初期番組も数多く、
テレビ研究には絶対に外してはいけない本の一つと言えよう。
本人はこの時に語り尽くしてしまったつもりか、
以後の同類の本が無いようであるが、たかだか一冊の書に収まる足跡ではない。
是非、きちんと調べて話を引き出せる人物によって、
新刊が待たれる人物である。 


★★★★★ 独自採点 ★★★★★


資料性:7
 全てが記憶語りではあるが、生々しい。ただ、若干の錯綜も有る感じだ。

面白さ:9
 希少なテレビ創生期から全盛期のバラエティー裏面史。

必携度:9
 これだけ語れる人物はいない。内容も、過激度も(笑)。

入手難度:7
 この手の本では珍しく、プレミア本となっている。