もぐらの歌書 題:もぐらの歌
副 題:アニメーターの自伝
著 者:森やすじ
出版社:徳間書店
発行年:1984/8/31
ワタクシはTVアニメ第一世代より心持ち年少といった感じだろうか。
ただ、わりと幼少期のテレビの事は断片的に記憶していて、
初期のTVアニメは大抵の物を見た記憶が有る。
本拠地でもしばしば書いているように、鉄腕アトムとか
鉄人28号とかのロボットものはそれほど好きではなく、
機械が大きな顔をしている作品は熱中していなかった。

初期はそういう作品が非常に多かったわけだが、
そんな中で好きだった作品に、『宇宙パトロールホッパ』、
『ハッスルパンチ』という物も有った。
本書の作者である、森康二が関わった番組である。
どちらも丸みを帯びた子供好きのする線が魅力で、
特にハッスルパンチは擬人化された動物達が活躍という、
森康二ならではという番組だった。

そんな森康二の伝記的エッセイ集であるが、
とにかく読んで思ったのは、これほど絵から受ける感じと
文章から受ける感じが一致する人がいるのだろうか、
という事だった。
丸みを帯びた文章、とでも呼べば良いのか、
内容としては結構キワドイ話も有ったりするのだが、
それがまったく刺々しい文体にならず、柔らかい。

戦前の軍国少年だった頃から、東映アニメを追い出され、
ズイヨーでも変な目に遭い、日本アニメと関わるに至るまで、
赤裸々に、と言っても良い内容が綴られていくが、
文体の特殊さ故に、それがまるで寓話のような印象にすらなる。
ご本人は後書きで「自伝を書いたのは失敗だった」
と書いているが、本人がそう言いたくなるという事は、
後世に残すという意味での自伝としては、成功なのだ(笑)。


★★★★★ 独自採点 ★★★★★


資料性:3
エッセイとして読むべき書。

面白さ:7
独特の文章が、まるで読む絵本と感じさせる。

必携度:3
よほどのアニメマニアなら。

入手難度:4
  古書価格がやや高めかも。