テレビよ、驕るなかれ書 題:テレビよ、驕るなかれ
副 題:放送の原点を問う
著 者:岡本愛彦
出版社:麦秋社
発行年:1983/10/1
 『私は貝になりたい』という作品が昭和33年の晩秋に放送された時、それまでテレビドラマというものに人々が投げ掛けていた揶揄の言葉、「電気紙芝居」という表現は陳腐なものと成り下がった。
 言わばキリスト前キリスト後みたいなもので、『貝』の前後でテレビドラマというものへの人々の見る目は、大いに変わったのである。
 その作品を演出し、芸術祭賞(放送部門)を翌年と併せて二年連続で受賞するなど、一躍、時の人となったTBSのディレクターだったのが著者である。森光子の元夫君でもある。

 その彼が、熱くテレビについて語った著作であるが、残念ながらと言うか、懐古的な部分はあまり無い。一貫して述べられているのは、テレビ放送とはどうあるべきか、という問い掛けである。
 中で一章だけ「私のなかのテレビ史」という項目が有り、そこで著者のテレビとの関わりの経緯が述べられている。
 彼が当時、放送とどのように関わり、どのような番組に興味を持ち、どのような番組を志し、どのような評価を受けてきたかが、大まかに書いてある。
 森光子との挿話も、ごく僅かだが有る。

 総じて言えば、ワタクシにも首肯できる部分の非常に多いテレビ観と言える。
 自分がこれまで様々な表現で書いてきた事は、もう30年も前から指摘していた人がいたのかと、流石の慧眼ぶりに脱帽もした。
 そして、このテレビ観は、間違い無く年々歳々テレビ人から消失して行っているものである。
 黎明期の心あるテレビ関係者には、自問が有った。テレビとはこれで良いのかと。
 その人物が「テレビよ、驕るなかれ」と30年以上も前に語りかけているのだが、その先達の問い掛けに、現今の関係者は口をつぐむしか無いであろう。
 極言すれば、テレビは驕りきってしまい、そして立ち腐れてしまった。
 先達の警告は、残念ながら活かされる事が無かった。 


★★★★★ 独自採点 ★★★★★


資料性:9
関係者ならではの様々な資料を駆使して提言している。

面白さ:7
非常に堅い内容だが、興味ある人には引き込まれる面白さ。

必携度:6
岡本愛彦の数少ない自伝的部分も有る。